伝統と革新の融合
過去から未来へと
受け継がれる技術
鎌倉時代から室町時代初期にかけて、関鍛冶の刀祖とさせる「元重」と「金重」が関に移住したことによって、関の刃物800年の歴史が始まります。鞴(ふいご)が熱い息を吹く、灼熱色した塊が火花を放ち、槌音が響く。熱を一気に呑み込むような水の音・・・・そこには鍛冶職人の汗とともに「モノづくり」に賭ける精神(こだわり)がありました。「鉄」「水」「松炭」「焼刃土」を四位一体で使用し、鍛造される関刀は、最も美しく、洗練された日本刀であると云われています。また「関伝」と呼ばれる独自の鍛刀法によって頑強で切れ味鋭い刀を作る、夢のような刀剣製造は、誉れ高いものです。こうして生まれた関の刃物製造の技法とモノづくりの精神は、幾多の歳月の中で脈々と受け継がれ、今でも関の刃もあの産業の随所に生かされ、関を「世界三大刃物産地」の一つとして知らしめています。
関では、包丁、ナイフ、ハサミ、医療器具、工業機械など多種の製品を製造しています。近年、製品の精度化・均一化・量産化が望まれる中、先進のテクノロジーとの融合を目指し、AI(人工知能)やロボットなどを導入した、高性能の機械化生産を実現しています。
また同時に、後継の育成にも余念がなく、若年層の技術者も多数輩出しています。鍛刀技術のDNAが刻み込まれた関の刃物造りは、さらに進化し、変化する時代と向き合い、人々の生活を豊かにする切れ味を造り続けます。
日本刀から始まった
関の刃物づくり
800年に及ぶ歴史を誇る関の刃物作り。そのルーツは鎌倉時代にまでさかのぼります。当時、各地で勃発していた戦乱を逃れた刀匠たちが、関の地で、日本刀の製作に欠かせない、良質な焼刃土と水、炭を見つけたことをきっかけに定住し、制作を始めたことが「刃物の町」誕生の第一歩だったと言われています。以来、関は「五か伝」と呼ばれる五大鍛冶流派のひとつ、関伝(美濃伝)の流れを汲む産地として、数々の名刀を生み出してきました。
室町時代には全盛期を迎え、「せきカミソリ也」とその切れ味の良さが公家の日記に書き記されるように、関発祥の「四方詰め」の技法によって鍛錬された日本刀は、切れ味確かでしかも丈夫な刀として、高く評価されるようになります。「関の孫六」で知られる仁代目兼元や、志津三郎兼氏をはじめとする名匠たちも、この地から数多く輩出されました。時代が移り、武器としての役割を終えた今もなお、連綿と続く「技と心」を受け継いだ刀匠たちが、砂鉄から精製した伝統の素材「玉鋼」を使って、関の地で日々鍛錬を続けています。
古来より、日本刀は刃物としての機能のみならず、携える者の精神を反映させるものとして、日本人にとって特別な存在であり続けてきました。その理想的な出来を評する「折れず曲がらずよく切れる」という理念は、現在の関の「刃物づくり」にも引き継がれ、国内のみならず、海外にも広くその名を知られるに至っています。
日本刀造りの確かな技が
伝承される関鍛冶職人たち
日本刀は、数多くの職人技が積み重なって完成に至ります。
現代の日本刀も、刀鍛冶の他にも伝統伎を持った職人たちが技を結集し作り出しています。
左上:火造り
左下:積み沸し
右上:昭和10年代の関の刀工(関鍛冶伝承館提供)
右下:S18年27代金子孫六襲名
日本刀の作刀工程
1砂鉄 2玉鋼 3積み沸し 4折り返し鍛錬 5固め(四方詰め) 6素延べ 7火造り 8荒仕上げ(センスキ)
9土取り(土置き) 10焼き入れ 11荒砥ぎ 12はばき師 13鞘師 14研師・柄巻師・鍔師・塗師
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土取り(土置き)
刀匠の自己表現;波紋を作ります。
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研師(とぎし)
日本刀、刀剣を研磨します。
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はばき師
日本刀の刀装具、はばきを作ります。
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柄巻師(つかまきし)
柄にがライトと呼ばれる紐を巻きます。
未来へ一歩、進化し続ける関の刃物
着実に加速する
関の刃物生産技術
近年、刃物製造に関する機械技術は急速に進化しています。AI、産業ロボットなどを駆使しオートメーション化を計ることで、生産性を格段に向上しています。品質の高い製品を大量生産できることによって、「日本の関」は「ドイツのゾーリンゲン」「イギリスのシェフィールド」と並び“刃物3S”と呼ばれるまでの世界的な地位を誇ります。膨大な年月を経て習熟された伝統的な技術も、いまやコンピュータ制御を軸としたプログラミングと設計のセンスによって、忠実に再現しています。最先端テクノロジーの精度は、もはや視認の限界をも超えたミクロンの領域にまで達しています。現在、関では男女を問わず多くの若い技術者がコンピュータのスキルを習得し、機械化生産に従事しています。
しかし如何なる精密機械も、人が操る道具である限り、最後は熟練のノウハウが不可欠です。いま関では、技術のみならず、企業体としての若返りを目指して、経営者の意識改革にも着手しています。企業間の垣根を取り払い、情報共有や勉強会を通じて、人材育成や就業環境の整備にも積極的に取り組んでいます。シンギュラリティ思考が湧現する昨今、関では、刃物産業の未来を見据え、「企業&人材・熟練の技術&テクノロジー」、それらが総合的に融合する体制を目指し、日々着実に、未来へと前進しています。